医療機関への支払いの種類(1)診療報酬と出来高払い制度

2024年度の診療報酬改定について、概要が明らかになりました。

そもそも診療報酬改定とはなんぞや?診療報酬を改定?というか、診療報酬とは?と疑問をお持ちの方も多いと思います。


今日はこの診療報酬について少し解説します。

(明日以降、来年度の診療報酬改定について個別の事例を取り上げたいと思います。)










みなさんは「診療報酬」という言葉、聞いたことありますか?


あまり耳にしない言葉ですが、実はすごく身近なものです。


なにかというと、(簡単に言えば)病院にかかった時に支払うお金のことです。


みなさん病気や怪我をしたときに、病院やクリニックに行きますよね。


そこで、最後窓口でお金を支払いますね。


それが「診療報酬」です。


つまり、診察・治療してくださった医師や医療機関に対する支払い=報酬を指します。


医師や医療機関は、診察や治療という医療サービス(経済学で「サービス」は目には見えないものを指します)を患者に提供すると、その対価として報酬を受け取ります。

これが医師や看護師の収入になったり、病院で新しい薬剤や機材を買うのに使われます。


この診療報酬ですが、日本では、政府が医療行為一つ一つに点数をつけているんです。

例えば、私この間高熱で病院に行きました。

その時の領収書にかいてあったのはこちらです。


「初・再診療」378点

「検査」305点

「投薬」68点



この点数を「1点=10円」として、一回の診療にかかった点数を足し合わせて算出します。


これを「診療報酬点数制」といいます。


日本では、患者はこの診療報酬の一部を自己負担として窓口で支払います。

一部を、と書きましたが、これは年齢や住む場所によって異なっていて、働く世代の多くの方は3割、残りはみなさんが加入している医療保険者が医療機関に支払います。


私の場合は、窓口で2,250円支払いました。

この金額は診療報酬の3割にあたり、私が自分でお財布からお金をだした額です(英語で自己負担を"out-of-pocket"というのはそういうイメージですね)。

残りの7割の5,250円は、私が加入している医療保険の保険者が支払ってくれています。


医療機関に入る収入(診療報酬)としては、私が支払ったお金+医療保険者が支払ったお金を合わせた7,500円、といったところでしょうか。


風邪をひいて一回病院に行くと2,000円くらい支払いますが、医師や医療機関に入る収入としては、1人7,500円と思うと、なかなかの金額になります。


診療報酬点数制の問題点

この診療報酬点数制は日本の医療制度の一つの特徴であります。


診療報酬点数制は、医療行為一つ一つに点数がついていることからわかるように、サービスの「量」に対して支払う金額が決まっています。


これを「出来高払い制度(fee-for-service)」と言います。


医師が行う一つの行為につき、それぞれ点数がつくわけですね。

(今回だと、診察して、検査して、という行為に一つ一つ点数がついています)


日本の外来で行われているこの出来高払い制度、良い面としては、医師がしっかりと治療を行うインセンティブがあるというところです。


一方で、その問題もあります。


コインの裏表のような話なのですが、この報酬の金額が、医療サービスの「価値」に対してではなく「量」によって決まっている点にあります。


なぜこれが問題なのでしょうか?


その答えは、医療機関に多量の医療サービスを行うインセンティブがうまれるためです。


もちろん「必要な量」のサービスを提供すれば問題はありません。

しかし、「必要以上の量」のサービスを提供するインセンティブが生じてしまいます。


医療サービスの「量」をたくさん供給すればするほど、医療機関の収入は増えます。

一方で、その費用は誰が負担しているかというと患者と患者が加入している医療保険の保険者です。


特に、医療サービスという財の特徴として、提供側の医師が持っている情報や知識が、需要側の患者が持っている情報や知識よりも断然多いため、通常、患者は医師に言われた通りに検査や治療を行うことになります。

医師と患者が持っている情報の間に「情報の非対称性」があるということですね。


このようなとき、医師側に提供する医療サービスの量を増やすインセンティブがあると(たくさん医療サービスを提供すれば収入が増えるので)、どうしても多くなりがちなことが想像できます。


もちろんほとんどの医師が「患者に必要な医療をおこなっているだけです」とおっしゃると思いますが、経済学の視点で考えると、そういう可能性もあるよ、ということです。


出来高払い制度のもとでは、予防医療を提供して病人が減ると医療機関は治療を提供する量が減り、収入が減ってしまうので、予防医療を提供するインセンティブが働きにくいという問題も生じます。


実際に、日本の外来受診の頻度はアメリカの2〜3倍であると言われています。

もし少ない外来受診回数でも、同じ日数で完治したり、健康上のアウトカムが同じであるならば、費用が少ない方が患者にとってはいいですもんね。



尚、出来高払い制度以外の支払い方法がとられている国もあります。

それは、「包括支払い方式」や「人頭払い方式」と呼ばれる支払い方法です。

日本でも入院は「包括支払い制度」になっていますが、これについては今度また書きたいと思います。


最後に、この診療報酬点数制の良い点をもう一つ加えます。

それは、全国どこでもこの点数は同じであることです。


つまり、東京で風邪をひいて病院に行って診察してもらい、処方箋を出してもらっても、沖縄や北海道で風邪をひいて病院に行って診察してもらって処方箋を出してもらっても、診療報酬、そして自己負担額は変わりません。


なんなら、病院ごとに値段が異なるわけではないので、私たち患者は医療サービスの価格で病院を選ぶことはないわけですね。

医師との相性や、便利なところにあるかどうか、そういったことでみなさん医療機関を選んでいるかと思います。


隣の都道府県の病院に行ったら治療費が安くなるからそっちに行く、というような医療受診行動に歪みを生じさせないのは経済学的にはよい点だと思います。



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