小学校の教員の人気(採用倍率)が低下しているのはなぜか?

今年の3年生のゼミで、「小学校の教員の人気(採用倍率)が低下しているのはなぜか」というテーマで学生らが研究をしました。

都道府県別の2010, 2015, 2020年のパネルデータを用いた実証分析です。


1. 回帰分析

採用倍率=α+β1*平均勤続年数+β2*有効求人倍率+β3*教員給与(対数)+β4民間企業給与(対数)+β5*人口に占める小学生の割合+β6*人口に占めるその年の大学卒業者数+εit

2. データ

用いたデータはこちらです。

変数名

定義

出典

倍率

教員採用試験の倍率

文部科学省 公立学校教員採用選考試験の実施状況(平成22年度、平成27年度、令和2年度)

平均勤続年数

教員の平均勤続年数

平成22年度、平成28年度、令和元年度「学校教員統計調査」

有効求人倍率

一般職業の有効求人倍率

一般職業紹介状況(職業安定業務統計)、都道府県(受理地別) 労働市場関係指標

教員給与(対数)

教育公務員の給与をログで表示

平成20年、平成25年、令和2年「地方公務員給与実態調査」

民間企業給与(対数)

民間企業の給与をログで表示

平成22年、平成27年、令和2  厚生労働省「賃金構造基本調査」

人口の占める小学生の割合

人口の占める小学生の割合

平成22年度、平成27年度、令和2年度 文部科学省「学校基本調査」

人口の占める大卒の割合

人口占めるその年の大卒の割合

平成22年度、平成27年度、令和2年度 文部科学省「学校基本調査」


3. 結果

記述統計

平均

中央値

標準偏差

最小値

最大値

倍率

4.81

3.60

3.80

1.40

25.2

勤続年数

19.6

20.3

2.67

12.6

24.8

有効求人倍率

1.49

1.56

0.54

0.37

2.81

教員給与(対数)

3.84

5.58

2.52

0.03

5.69

民間企業給与(対数)

2.53

2.53

0.04

2.41

2.66

人口の占める小学生の割合

0.05

0.05

0.004

0.04

0.07

人口の占める大卒の割合

0.003

0.002

0.002

0.00

0.01


(1)Pooled OLSによる結果

標準誤差

t

p

 

勤続年数

-0.1

0.15

-0.7

0.51

有効求人倍率

-2.03

0.71

-2.9

0.005

***

教員給与(対数)

0.02

0.12

0.16

0.87

民間企業給与(対数)

-35.9

9.54

-3.8

0.0002

***

人口の占める小学生の割合

49.3

77.58

0.64

0.53

人口の占める大卒の割合

174.2

173.93

1.00

0.32

定数項

97.3

26.35

3.7

0.0003

***

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1

(2)固定効果モデルによる結果

 

係数

標準誤差

t

p

 

勤続年数

-1.04

0.26

-4.04

0.0002

***

有効求人倍率

0.08

1.32

0.06

0.95

教員給与(対数)

-1.34

2.66

-0.50

0.62

民間企業給与(対数)

-1.87

37.18

-0.05

0.96

人口の占める小学生の割合

320.84

355.24

0.90

0.37

人口の占める大卒の割合

1360.01

1728.88

0.79

0.44

2015ダミー

-10.08

14.29

-0.71

0.48

2020ダミー

-5.57

1.60

-3.48

0.001

***

定数項

18.58

86.11

0.22

0.83

 

*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1

結論として、先生の賃金は採用倍率に影響を与えていませんでした。むしろ、民間企業の有効求人倍率や民間企業給与などでみた民間の労働市場が魅力的なほど教員の倍率は下がっています。
そして、パネルデータを用いた分析をした場合、2010年をreferenceとしたとき、2020年には統計的有意に倍率が下がっていることがわかりました。

4. 新聞記事での件数

「教員 働き方」というキーワードで日経新聞の記事数を調べたところ、以下の通りでした。
今回使った2010, 2015, 2020前後5年間で分けています。

2007年1月1日〜2012年12月31日 0件
2012年1月1日〜2017年12月31日 43件
2018年1月1日〜2023年12月31日 349件

上記の回帰分析の結果でも明らかになったように、やはり2020年に前後がポイントになっています。

この背景には、平成28年(2016年)に行われた文部科学省の調査「教員勤務実態調査」で先生たちの勤務実態が明らかになったのが大きいのではないかと思います。
教員の働き方がフューチャーされ始め、小学校の先生の勤務実態が明るみになり、採用倍率に負の影響を与えたと考えられます。

5. 勤務時間について

小学校の先生は学内勤務時間が1日平均11時間というショッキングな数値でした。
持ち帰り仕事も含めるともっと長時間労働かと思います。それがあたりまえになっていたのですね。
回帰分析では都道府県別の勤務時間のデータがなかったので入れられなかったのが残念です。

6. 政策提言

いま給特法の改正が議論されていますが、50年以上も前(1971年)にできた法律なんですよね。
給特法の改正による処遇改善だけでもだめで、かといって処遇改善が必要ないわけではなく、処遇改善と働き方改革を同時に進める必要がある、という結論になりました。

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